全社員で「ハラスメント防止研修」を受講する重要性とは

こんにちは。ハラスメント研修講師の山藤祐子です。

近年、職場でのハラスメントが原因で離職やメンタル不調に至るケースが増えており、企業にとって決して他人事では済まされない課題となっています。

とはいえ、誰か一部の社員だけがハラスメント防止について知っていればいい、という問題ではありません。

私は、「ハラスメント防止研修」は、経営者を含む全社員が受講するべきと考えています。

世の中には、新入社員や管理職だけに受講させるケースがあるかもしれませんが、それではハラスメントを防止することは難しいでしょう。

経営者以下、全社員が同じ認識のもと、それぞれの言動を注意し、ハラスメントの防止に努める必要があるからです。

そこで今回は、実際に全社員で受講していただいた企業様の研修をレポートしながら、全社員が受講する重要性についてお話ししたいと思います。

社名:S社
業種:日用雑貨製造業
従業員数:約150名(当日の受講者数115名)
研修方式:集合研修(欠席者・地方勤務・海外勤務の方は、録画で受講)
所要時間:90分
研修内容:コンプライアンス研修(ハラスメント防止)

全社員での研修受講に至った経緯

研修のご担当者様であれば、ご理解いただけると思うのですが、経営者含め、全社員での研修を実現するのは、かなり、かなり大変なことです。

にもかかわらず、今回S社で全社員が受講することになったのは、経営企画部署にいらっしゃる担当者様(A様)の並々ならぬ熱意によるものでした。

長年続く企業独特の「古い体質」に問題意識のあったA様は、全社員が同じ視点に立ち、誰であっても同じ判断ができるようになるための研修が必要だと思われていたそうです。

管理職や上司の中には、悪気はなくとも行き過ぎた指導をする人がいたり、若い人の中には、なんでもハラスメント扱いする人がいたりと、噛み合っていない状態はA様の「いまやらなければ!」という思いを強くしていったのでしょう。

A様は、各部署との調整や、経営層への根気強い働きかけを続け、ようやく社長からゴーサインが出て、今回の研修実施となりました。

研修でお伝えした項目(パワハラ部分から一部紹介)

実際の研修では、パワハラ以外のハラスメントにも触れていますが、ここではとくにパワハラに絞ってご紹介します。

<研修のポイント>

  • ハラスメント知識の再確認
  • パワハラと指導の違いを理解し、適切な指導方法を確認
  • 企業が講ずべき措置と労働者の責務
  • ハラスメントが起こる理由
  • ハラスメント理解度チェック
  • パワハラの種類と該当例
  • グレーゾーンを考える
  • 指導とパワハラの違い
  • 指摘しない、叱らないことの弊害

研修では、具体例やケーススタディを交えながら、全員が自分ごととして考えられるよう工夫しています。

途中には活発な質疑応答もあり、関心の高さを感じました。

受講者アンケートからわかる、ハラスメントの誤解

「自分がハラスメントだと感じれば、それはハラスメントである」

これは大きな誤解です。

個人の「感じ方」が重視されすぎる風潮がありますが、もしこのようなことがまかり通ってしまえば、言ったもの勝ちになってしまいます。

テレビドラマや、情報番組などで「相手がハラスメントと感じたかどうかが、重要です」といった間違った解釈を放送しているのも、誤解の要因かもしれません。

しかし、ハラスメントとは、そのように単純なものではなく、客観的な判断基準が必要であるということを知ってほしいと思います。

以下は、受講後のアンケートから、誤解に関する回答を抜粋したものです。

他者に対して不快な言動・態度=「〇〇ハラ」ではないということが大きな気づきでした。

自分の中で、『相手が嫌だと思ったら「〇〇ハラ」』という定義づけを行っていたので、その定義づけは決して正しいとは言えないことがわかり、ハラスメント問題の難しさを感じました。

ハラスメントと感じた側も、それが単なる不快な事例なのか法に抵触するのかを冷静に見極めてハラスメントだと判断すべきだと感じました。

誤解や説明不足がハラスメントや職場の環境悪化の萌芽になり得るので、拒否がしづらいからといって受け入れてしまうのではなく、できれば差し障りがないように拒否の意思を表明することが大事なのだと思います。

こういった研修を定期的に実施いただくことで、意識の定着がされたらとてもよいことだと思いました。

これまで威圧的な態度で接した場合は全てハラスメントだと思っていましたが、客観的事実がないとハラスメントに当たらないということに気が付かされました。

受け手の感覚、捉え方にてハラスメントが成立するというイメージが強かったが、しっかりと法規制に基づいて判断されるという事が認識できて有益でした。

必要以上にハラスメントを怖がり、業務上必要な依頼、コメントを抑える必要は無い、という事も感じられました。

いずれにしてもしっかりと相手を尊重し、肯定したうえで、こちらの主張、意志を伝える事が非常に肝要であると、再認識できたことも良かったです。

他者に対して不快な言動・態度=「〇〇ハラ」ではないということが大きな気づきでハラスメントは受取手側次第であると思っていましたが、間違った認識だと気づかされました。

自身の思っていたハラスメントは法的には問題なく、あくまで不快かどうかで判断していた。正しい知識を身に着ける必要があると感じた。

講義前に自分が思っていたハラスメントの定義と差があり、正しい知識を得ることができました。普段の発言や行動を見直そうと思いました。

過去に受講したハラスメント研修では、「相手がハラスメントと感じたら負け」と理解していたので少しニュアンスが違うところに気が付きました。

「指導」と「ハラスメント」の線引きを理解する

誰もが迷うのが、これはパワハラなのか?パワハラではないのか? と言えるでしょう。

しかし、ひとつひとつの言動に対し「これはパワハラでは?」と疑心暗鬼になるようでは、仕事はまわりません。

管理職の仕事は、なんでしょうか。

管理職は、業務の質を高めながら、メンバーを育てる立場。

本質を考えて行動する必要があると思います。

まずは、適切な指導かどうか?を考えることが大切です(そのポイントは研修でお伝えしました)。

不適切な指導は、パワハラにつながることも大いにあり得ますので、指導とハラスメントの線引を、しっかりと理解していただきたいと思います。

以下は、受講後のアンケートから、パワハラと指導の線引きに関する回答を抜粋したものです。

自身の行動や言動がハラスメントに該当するのか指導なのか認識していない限り問題は無くならない。

言う側言われる側どちらも自身の行動や言動の認識を自覚しないと双方で話し合い理解を深める事が出来ない。

結局コミュニケーションを取る事と取り方が一番大事では無いかと感じました。

「ハラスメントにならないかよりも、指導として適切かを考える」。相手にとっては行き過ぎた指導と感じることもあることから、常に意識することが必要と認識した。

「これぐらいのこともわからないの?」は結構口にしてしまっていると思うので、一旦心に留めるよう注意する。

指導とパワハラの違いの具体例が非常に参考になりました。「指導として適切か」を常に考えた言動を心がけていきたいと思います。

今まで「これはハラスメントかな?」と悩むような案件でも、ある程度 判断基準のポイントが判るようになったので今回の研修は受けてよかったと感じています。

逆にハラスメントになると思って伝えるのを辞めたこともあったので、後輩への指導ができていなかったことに気づいた。

指導とハラスメントを混同しないように気を付けようと思う。

ハラスメントになるかどうかというよりは適切な指導をしているかどうかに着目するというお話に納得いたしました。

後輩に指導をする際には言動そのものが法的にセーフか否かではなく、言い方や指導量に気を配りお互いにメリットのある適切な指導ができているかを意識しながら業務に励みたいと思います。

パワハラと言われるのを気にしすぎて、管理職が仕事を負担している部分があり、負担が多く、体を壊すこともあり、育成につながっていないこと。

多様性の時代、それぞれの立場をお互いが見れるようになり、みんながなるべく負担なく、よい環境になるためのきっかけになったのではと思いました。

お互いが意識し、適度の距離感で仕事に集中できたら良いと思う。

ハラスメントのボーダーラインがわからず、あれもこれもハラスメントと気にして、話せなくなるのではないかと思っていましたが、指導とハラスメントの違いを知ることができとてもよかったです。

方法と内容で、全然違う結果になると学べてありがたかったです。

「グレーゾーン」の解釈

弊社の研修では、オリジナルの漫画を用いてグレーゾーンの事例を考えていただきます。

視覚的にわかりやすいと好評で、「自分の職場でも似たような場面がある」といった声も多く寄せられました。

どこがグレーなのか、何をすると黒になるのかを知ることが可能です。

ただし、誤解をしないでいただきたいことがあります。

法的にハラスメントに該当しないなら、グレーゾーンの言動はOK!ということではありません。

ハラスメントと認定できなくても、不適切な指導は存在します。

不適切な指導を、適切な指導に変えていく努力は必要です。

以下に、受講後のアンケートから、グレーゾーン関する回答を抜粋したものを紹介します。

ハラスメントだと思った例でも、「ハラスメントとは言えないが、適切ではない」というパターンが多く、なるほどなと感じました。

あからさまなパワハラ行為に遭遇する事は滅多に無さそうですが、グレーゾーンに値する場面は日常でも起こり得そうなので周りがそのような環境になっていないか・また自分が適切でない行動をとっていないかは常に気を付けていきたい。

知識を常にアップデートしていく事も重要だと思いました。

ハラスメントのグレー的な部分は無意識に部下、上司ともに起きている状況なので、お互いが意識できたら良いと思う。

法的に明確ではないグレーゾーンが多く、このような研修で日頃より知識を身に付けていくことが大切だと感じました。

対応する法律の違いからなのか他の4つのハラスメントに比べてパワハラのグレーゾーンの広さや個人間のコミュニケーションへの依存度が高いと感じました。
今後より厳格なライン引きが行われていくと思われるので今回だけで終わらせず定期的な啓蒙活動の必要性があると思いました。

誰もがハラスメントと分かるような行為ではない、“グレーゾーン”のハラスメントについては日ごろのコミュニケーションをもって予防できることが多いと感じました。

今まで「これはハラスメントかな?」と悩むような案件でも、ある程度 判断基準のポイントが判るようになったので今回の研修は受けてよかったと感じています。

全社員が受講することの重要性

一度、全社員でハラスメント防止研修を受講した。

それだけで会社全体の意識が統一できるとは限りませんが、それでも大きな前進になることは間違いありません。

少なくとも「あの研修で、こう言われたよね」と、課内や部内で話し合えるきっかけになるはずです。

何事もそうですが、判断の基準になる考え方があるとないでは、結果が大きく変わります。

1+1は2。たまに3になったり4になったりすることはありません。

判断基準がバラバラな組織では、同じ問題に対して異なる対応がなされ、結果としてトラブルが長期化する恐れがあります。

ハラスメント防止の観点も、気分によって答えが変わらないようにすること。

その基準を持てるのは、全社員が受講する意義のひとつではないでしょうか。

最後にもう一度、受講者の感想を抜粋してご紹介します。

事例を取り上げていただき大変わかりやすかったです。仕事を円滑に進めるためには必要な知識だと思うので、全社員対象で受けられたことはとても有意義だったと思いました。

ハラスメントではなく、適切な注意や指導をできるよう、気をつけていきたいと思います。

今回の研修を受けたことでこれまでの認識に誤りがあったことに気付かされました。知らぬ間に加害者側にならぬように意識しようと思いました。

今回社員全員が講習を受けたことで会社全体の意識も変わりより良い方向に向かう良い機会になったかと思います!

自分の基準は決して相手の基準ではない、という事を改めて気を付けながらコミュニケーションを図っていかなければならないと感じた。

日頃からのコミュニケーションが何よりも大事だと思った。

ハラスメント研修を受けて、改めて自分自身も知らず知らずのうちにハラスメントをしてしまっている可能性があることに気づかされました。

特に、被害を受けた方に対する対応によってさらに傷つけてしまう「セカンドハラスメント」については、十分に注意が必要だと強く感じました。

日頃から相手の立場に立って言動を見直し、無意識のうちに誰かを不快にさせていないか、意識して行動していきたいと思います。

講師からのコメント

ここでは、研修中にお答えできなかったご質問(アンケート内に記載)に、お答えいたします。

違法性のポイントは「嫌がっている」と「複数回」と「業務の必要範囲を超えて」なのだとは思うが、「嫌がっていることを示せない」や「業務の必要範囲を超えてかどうかがグレー」な状況によって「イヤな気分になること」は確実に存在する。

これは他者と仕事をする以上、明確な違法性がなければ、自分の中で受け入れるしかないということですよね。

山藤祐子

他人と仕事をすれば、嫌な気持ちも、もやもやした気持ちも波のように生まれてくると思います。

明確な違法性が無い場合、それを「ハラスメント」にすることは難しいです。

しかし、それでは毎日仕事をしていたら、苦しくなってくると思います。

私としては、相手と話し合う機会を設けてほしいと思います。それは、「職場」だからです。

一日の起きている時間の半分を一緒に過ごすのですから、お互いに気持ちよい時間を送るために話し合いをしてほしいです。できれば、仲介役の人がいるといいでしょう。

そのとき「なんで、こういう言い方をするんですか!」と相手を責めるのではなく、「私は、○○という言われ方をすると、自分を責められているように感じるので、別の表現にしてほしい」など、自分は何に(事実)に対して、こう感じる(気持ち)と、伝えてみてください。

相手もあなたに要望があるかもしれません。お互いに誤解している可能性もあります。「もや」っとする気持ちを話す機会をぜひ作ってみてください。

「叱る=ハラスメントに相当」と「指導=ハラスメントではない」と明確に分けることができれば、わかりやすいのですが、そうでもないようですので、事例などの判断に迷います。

何か考え⽅のコツなどあれば、今後の機会にご教⽰ください。

山藤祐子

業務上の必要性がある指示、指導なのか。次にその指導の仕方(話し方、話す内容、態度)がその指導内容に応じた適切な方法かということです。

業務上の必要性があるか、相当性があるかを判断の軸にしてもらえればと思います。

ハラスメントを意識すると発言するのが難しいと感じました。

今回再認識して注意しますが、常に心がけるとよいことがあれば教えてください。

山藤祐子

感情(特に怒り)のコントロール、個人的なことは理由なく聞かないことと、指導をするときには具体的に行うことだと思います。

発言に気を付けようと思うだけでも、十分に効果と変化があると思います。

「受講しただけで終わり」にならないために

ハラスメント防止研修は、受講して終わりではなく、むしろ、ここからがスタートです。

大事なのは、ハラスメントのない状態が、会社の風土として根付くこと。

そのためには、繰り返し、繰り返し、全社員の意識と理解度を確認していくことが大切です。

最低でも、年に1度は全社員で学習する機会を設け、日常的にはチェックリストを活用するなどして、いかなるハラスメントも防止していく気持ちを持ち続けていただきたいと思います。

投稿者プロフィール

山藤祐子
山藤祐子ハラスメント対策専門家
ハラスメント研修専門講師
国家資格キャリアコンサルタント

ハラスメントとは、あらゆる分野における「嫌がらせ」「迷惑行為」のことです。

企業においてハラスメントを防止するための研修を行っています。

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