「仕事向いていないから、辞めたら?」は、パワハラか否か
こんにちは、ハラスメント対策専門家の山藤(ざんとう)祐子です。
年間10,000人以上にハラスメント防止研修をしています。

先日、俳優の佐藤二朗さんと橋本愛さんが共演したドラマ撮影現場での、ハラスメント疑惑が話題となりました。
真偽のほどはともかく、私が今回の件について「ハラスメントか否か」を問う立場ではないものの、一連の報道の中で気になった点が2つありました。
1つは、佐藤二朗さんが橋本愛さんに対し「俳優を続けるべきではないのではないか」と、発言されたということ。
2つ目は、橋本愛さんが過去のトラウマ経験を踏まえ、演技上の配慮を依頼していた点。
こうした発言は、芸能界に関わらず、企業でも起こり得ることですので、ケースを置き換え一般論としてお伝えしたいと思います。
この仕事が向いている向いていないの話はしていいのか?
例を挙げてお話しします。
営業の仕事で入社した社員がいる場合です。会社にはきちんと整備されたマニュアルと商材があり、そのマニュアル通りに動けば、多くの社員が一定の成果を出せる状態だったと仮定します。
ところが、新入社員のAさんは、皆と同じ指導を受け、同じように取り組んでいるのに、3か月たっても成果が出ない。
手厚く指導をしても、半年たっても数字が上がらない状態が続いたとしたら、上司が「Aさんは、この仕事には向いていないのではないか」と、伝えることは業務上必要な指摘です。
そして、「別の仕事のほうが力を発揮できるのではないか」という話にはなるでしょう。
また、どうしても担当してもらう仕事がない場合には、退職をお願いする話につながっていく可能性があります。
つまり「向いている」「向いていない」という話自体は、職場の中ではあり得ることですし、基本的には、ハラスメントに該当することはありません。
「仕事向いていないから、辞めたら?」と言われたら
では、上司が部下に「仕事向いていないから、辞めたら?」と告げた場合はどうでしょうか。
仮に上司が何も指導せず、方法も教えず「辞めたら?」を執拗に繰り返すとしたら、業務上の必要性と相当性がないためパワハラに該当する可能性が高いです。
つまり、「向いてない」「辞めたら?」という言葉そのものではなく、その伝え方や、プロセスが適切だったかどうかが判断の分かれ道といえます。

業務命令を拒否する理由が「トラウマ」の場合
従業員は、業務命令を遂行する立場にあります。それが雇用契約だからです。
ですが、「トラウマがある」ということを理由に仕事の制限をしてほしいと希望があった場合、どこまで通用するのか解説していきます。
まず、従業員側が企業に対して過去のトラウマについて積極的に告知する義務はありません。
ですから、働き始めてから「実はトラウマがあって、この業務は難しいです」と申し出てくること自体は、十分にあり得ることです。
トラウマがあるというのは、ある意味、本人の主観的な判断になります。
企業側が客観的に確認しようとするなら、医師の診断書を提出してもらうなどして、話し合う場を設けていく必要があります。
本人の発言だけで、仕事を制限したり、業務を変更したりすることはありません。
にもかかわらず、本人の申告のみを理由として業務命令を拒み続けるとしたら、正当な理由のない業務指示違反にあたる可能性があります。

逆パワハラにも、要注意
単純に言葉だけを切り取って「パワハラだ!」ということは、注意が必要です。
たとえば、上司が半年間手厚く指導をした記録を残した上で、「このままでは難しいので、他の仕事を考えたほうがいいのでは」と伝えたとします。
しかし、その社員が指導の経緯を省き、「上司に一方的に辞めろと迫られた」と社内外に言いふらしたとしましょう。
同様に、診断書の提出を待っている状況であるにもかかわらず、「トラウマがあると伝えたのに、仕事を強制してきた上司はパワハラ上司だ」と、社内外に言いふらすケースも考えられます。
いずれの場合も、上司としては、業務上必要な指示を、正当な手順を踏んで行っているにすぎません。
にもかかわらず、根拠のない「パワハラ」というレッテルを繰り返し流布された上司にとっては、業務上必要のない精神的負荷をかけ続けられるわけですから、状況によっては「逆パワハラ」として扱われる可能性があります。
ハラスメントは、立場の強い者から弱い者に対してのみ起こるものではありません。
事実に基づかない主張を繰り返し、相手を精神的に追い詰める行為は、立場に関係なくハラスメントになり得るということを、企業は理解しておく必要があります。

まとめ
- 「向いていない」と指摘すること自体は、即ハラスメントには該当しない
- 指導や理由の説明もなく、「辞めたら?」を執拗に繰り返すことはパワハラに該当し得る
- 心身の事情を理由に業務命令への配慮を求める場合は、診断書など客観的な根拠が必要
- 根拠のない主張を繰り返して上司を追い詰める行為は、逆パワハラになり得る
いかがでしたでしょうか。
決して、芸能界の特殊な問題ではなく、一般企業でも十分に起こり得ることなのではないかと思います。
企業としては、ハラスメントを防ぐためにも、全社員での共通認識として定期的に「線引き」を確認していくことが重要です。
弊社のハラスメント防止研修は、対面・オンラインともに実施しています。
こちらのページをご覧ください。
https://www.diamond-c.co.jp/service.html
投稿者プロフィール

最新の投稿
ハラスメント対策2026年7月14日「仕事向いていないから、辞めたら?」は、パワハラか否か
ハラスメント対策2025年11月26日【ハラスメント防止】これやめて!会社の飲み会でやりがちな行動9点
ハラスメント対策2025年10月28日「ちゃん付け」がセクハラ?職場で「さん付け」が求められる理由
ハラスメント対策2025年8月28日職場全員で学ぶからこそ意味がある ― ハラスメント防止研修の効果
ハラスメント研修のお問い合わせ・ご相談
平日の日中は、登壇中であることが多いため、電話に出にくい状況です。
メールフォームにてお問い合わせくださいましたら、こちらからご連絡させていただきます。
お手数おかけいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。


